微睡みの地平線

猫のヒゲ集めてます。

死にたいくらいに憧れた琵琶湖のコト。其の3

8時すぎ。俺達は琵琶湖に到着した。厳密に言えば琵琶湖周辺の駅だが。

とりあえず予約してある宿を目指した。(確か唐崎周辺だったと思うが詳しい事は失念してしまった)駅を降りて湖を目印に歩いていく。途中、ラブホテルの前を通った時は大声で盛り上がった。若かったなぁ……。

少し迷ったが無事に宿に到着。荷物を置かせてもらい、観光に出掛けるもの、釣りに出掛けるものと別れた。今なら仮眠してから……とか言ってしまうだろうが、休みもせずに湖を目指した。

しかし、到着してから気になっていたのだが、風が強い。しかも段々と強くなってきている。後で知ったのだが、この時期は比叡おろしと呼ばれる風が吹くらしい。

強風にもめげずに目についた浜に降り立ち支度を始めた。風が強いので重めのルアーをセットする。そして琵琶湖に向けて初のキャスト。風に煽られかなり右に飛んでいった。しかし、広い。海の投げ釣りのようだ。

いきなりアタリがあったりして……などと考えていたが、心配する必要はなかった。すんなりルアーは返ってきた。黙々とキャストを繰り返すがアタリはない。

俺達が普段通っているフィールドは一般的に野池と呼ばれる小規模の灌漑用池だ。こんなに広い場所だと、どう攻めたらいいのかわからなかった。

ひたすらキャストを続けるが段々と風が強くなってきてまともにキャストがままならなくなってきた。俺達は風裏を探しに移動を始めた。

本当なら対岸に渡りたいのだが、琵琶湖大橋は遠くに見えていて歩いていくのは一苦労しそうだった。なんとかマトモに風を受けない場所を見付けたが時間と共に風向きがまた正面になってきた。

そして、風は暴風とも言えるレベルになってきた。前に向かってキャストしても、ルアーは真後ろに飛んでいく。立っているのもキツいくらいだ。

また俺達は移動を開始する。しかし、歩いても歩いても吹き付ける暴風は一向に止む気配もなく、更に強さを増していくようだった。

そして、こじんまりとした入江のような場所に人だかりができているのを見付けた。近寄ってみると皆、竿を出している。しかしルアーロッドではなくのべ竿と言われる餌釣り用の竿だ。

入江には小屋があり、生きた海老を釣りえさとして売っていた。竿を出している人々はみな餌釣りをしていた。もちろんブラックバス狙いだ。

餌釣りは俺達の流儀に反する。しかも琵琶湖まで遥々やって来たのだ。しかし、周りの竿を出している人々は簡単に小型のブラックバスを釣り上げている。

ここで小さな葛藤が始まる……

せっかく琵琶湖にきたのにボウズで終わるよりは……と。

流儀をすんなり曲げてしまった。海老を購入して見よう見まねでやってみるが、俺の竿には反応がない……。

近くで竿を出している人がアドバイスをくれた。そして、絶望的な一言も。
「この時期はルアー厳しいで。毎日こんなんやしな~」
と。
次回に続きます。

死にたいくらいに憧れた琵琶湖のコト。其の2

真夜中の駅に向けて自転車で俺は走り出した。途中で近所のTと待ち合わせしていた。酒屋の前で合流すると二人で駅に向かった。

まだ肌寒い3月。次第に体が冷えていくが気にならなかった。若い頃は意味もなく真夜中に外出することに対して異様にテンションが上がったものだ。

駅に向かう途中でAとMも合流した。皆、普段よりも格段に饒舌だった。これから始まる旅に希望をふくらませていた。

真夜中の1時すぎ、俺達は駅に集合した。最初の目的地は大垣だった。真夜中にも関わらずホームにはちらほらと人がいた。

目的の列車が到着し、俺達は乗り込んだ。が、列車の中は人が一杯だ。座る席など一つもなかった。今になって思えば青春18きっぷを利用して遠くに出掛ける人々だったのかもしれないが「青春18きっぷ」のはずなのだが、青春とは縁のなさそうな方々も多く見られた。

淡々と時間は過ぎ、壁にもたれて眠る者もいればテンション高く話続ける者もいた。列車が名古屋に到着すると混雑していた車内に少しだけ空きができた。すかさず席を確保する俺達。確保した席は、ほんのりと酒の匂いがした。

やがて、誰も話をしなくなった頃に最初の目的地、大垣に到着した。乗り換えのためにホームを駆ける。なんとか席を確保し、一安心した。

うつらうつらしながら差し込む朝日に起こされた。睡眠不足でけだるいはずなのだが、興奮であまり感じなかった。

そして車窓から遠くに光る広い水面が見えた。琵琶湖だ。

初めて見たときはまんま「海のようだ」としか思えなかった。琵琶湖が見えた事によりテンションが上がった俺達。

長い1日はまだ始まったばかりである。

其の3に続きます。

死にたいくらいに憧れた琵琶湖のコト。其の1

琵琶湖。日本一大きな湖。現在のブラックバス日本記録もここから出ている。20数年前、中学生だった俺達には憧れの聖地だった。そんな俺達が琵琶湖に初めて挑んだ時の話を書いてみようと思う。

前回の話から数ヵ月経ち、俺達はそれぞれ進路も決まり無事に卒業の運びとなった。高校入学までの春休みを利用して仲間で卒業旅行をしないか?と誰かが言い出した。前回登場したA、Mだけでなく、クラスメイトの仲の良い仲間達も一緒だ。

釣りをするやつ、しないやつが半々くらいのメンバーで7人集まった。皆で話あって関西方面に行く事になった。俺達3人の目的はもちろん琵琶湖だった。他のメンバー達は大阪、京都だったが半ば強引に琵琶湖周辺に宿を取る事になった。

肝心の移動手段だが、「青春18きっぷ」を利用して普通列車のみで滋賀県まで移動する事にした。若さとバカさが溢れていた俺達は今なら行く前からゲンナリしてしまうような鈍行の旅にわくわくして何日も前から入念に準備を始めていた。

釣行前の準備、ましてや初の琵琶湖遠征ともなれば気合いが入る。色々な琵琶湖関係の釣り本を読みあさり、釣り雑誌の過去の記事に付箋紙を挟み…受験にこの集中力と情熱を使っていたらレベルがワンランク高い学校に入る事は簡単だったのではなかろうか?

馴染みの釣具店の親父さんにも琵琶湖に行ってきたお客さんの話を聞いたり、実績のあるルアーを教えてもらったりした。この釣具店では、学生限定でブラックバスのフォトダービーを開催していて、毎年上位に入ってくるのが琵琶湖遠征した連中だった。この頃は夢のサイズだった50センチオーバーが「釣れる」というイージーなイメージを抱いていた。

前述の琵琶湖遠征した連中が釣りをしたポイントは沖ノ島周辺だった。俺達も沖ノ島に入りたかったのだが、釣りをしない連中の交通手段の確保などの事情から琵琶湖湖西と言われる地域を中心に回る事にした。

列車の時刻を調べてくれた友人によると出発は夜中になるようだった。夜中という事がまた俺達をわくわくさせた。ありったけのルアーと少しの着替えと竿とリール。希望に胸をふくらませて自転車で真夜中の駅に向かった。


長くなりそうなので続きます。

昔々、暑い熱い日のコト。

今年は、何度も台風が上陸をして難儀された方も多かっただろう。台風前になんとなく胸が苦しくなるのは俺だけなんだろうか…?この感覚に襲われると決まって思い出す日の出来事を書いてみようと思う。

20数年前。元号が昭和から平成に変わったばかりで世間はバブル景気に沸いていた頃。

当時の俺達は受験を控えた中学生だった。毎年行われるクラス替えで釣りを共通の趣味とする仲間が固まって同じクラスになった。その仲間達とよく地元のフィールドに出掛けていた。

当時は足といえば自転車か公共交通機関を利用するしか俺達に選択肢はなく、若さとバカさに任せて西へ東へと走り回っていた。ヘドンのルアーを求めて自転車で1時間走って隣の市の釣具店まで行ったり、ブラックバスがいるという噂を聞いては迷い迷い山の上まで池を探して走り回ったり…。

現代とは違い手軽にネットで情報が手に入る時代ではなく、最も新鮮な情報は地元の釣具店の話かフィールドで出会った釣り人との会話で得るものだった。一番価値があったのは自分の足で稼いだ情報だった。

俺達は次第に地元のフィールドのみではなく、大型のブラックバスが釣れるという電車で1時間ほどのK市へ通うようになっていた。通うと行っても中学生の小遣いの範疇では月に一度が精一杯で当然、駅からは徒歩で移動である。

この市には無数の灌漑用の池が存在していた。現在ではほとんどの池にブラックバスが入っていると思うが、当時はまだ入っている池と入っていない池が半々といったところだった。とりあえず駅から徒歩で移動できる範囲の池へ行って釣れた池、釣れたと聞いた池には地図にマーカーで印を付けていったものだ。

夏休みに入ったばかりの7月の終わりに前々から約束していたクラスメイトのAとMと共にK市に出掛けた。この日はAの父上が車でK市まで乗せていってくれたことを覚えている。俺達の街ではまだ見掛けなかったファミリーマートの前で降ろしてもらい食料を調達して歩きはじめた。

20分も歩けば最初の目的地N池だ。このN池で俺は最初の釣行時に人生初となるブラックバスを釣り上げていた。数は出ないが出たら良いサイズの池だった。

N池に到着する頃には俺達は汗だくだった。非常に蒸し暑かった。7月の暑さだけではなく、台風が接近してきていて翌日からは天気が荒れると予報が出ていた。

そして、N池に到着し水面を一瞥した俺達はさらに元気を無くす。アオコが発生していたからだ。池の水面に抹茶を混ぜたような色。少ない俺達の経験からもこの状態が厳しいものである事は理解できた。

せっかくここまで来たのだから…と気を取り直して準備を始める。一番最初にキャストを始めたのはA。こいつは今でも釣り支度が早い。続けて俺とMもキャストを始める。

…しかし、生命感がない。なさすぎる。少ないルアーを手を替え品を替え試行錯誤するがアタリはなく、たまにあってもギルのアタリ。当時の俺達はワームと言えばテキサスリグだったし、グラブと言えばジグヘッドだった。当時最先端だったスプリットショットリグなんか知りもしなかったし、使い始めたのはこの少し後だった。要するに引き出しが少なすぎたのだ。

いい加減ラインが抹茶色に染まりウンザリしかけた頃にMにアタリが!ロッドがしなる。慎重に寄せてハンドランディング。この時に少し足場が高い位置で釣りをしていたので腹這いになり一人が池に落ちないように足を抑えてランディングした。今思えば非常に間抜けな絵面だ。

Mの釣り上げたブラックバスは42センチの良型だった。もうMは一人でご満悦である。当然、俺とAは面白くない。ここで昼食とした。昼食はファミリーマートで買ってきたおにぎりで一人5個ずつ買ったはずだった。

俺達は、ああでもないこうでもない言いながら食っていたのだが、おにぎりが足りない。Aもひとつ足りないと言う。疑惑がMに向けられる。Mは必死に咀嚼しながら食べてないよ!と言い張る。しかし、Mの言い分は俺達に通じずにMはしばらく「おにぎり泥棒」というひねりもない不名誉なアダ名を付けられたのだった。

太陽が真上に来る頃に抹茶色に飽き飽きした俺達は移動を決意した。地図を拡げて比較的近距離のO池を目指す事にした。O池は比較的メジャーフィールドだったが俺達はまだ行った事がなかった。

地図で見ると比較的近距離であるが、徒歩で土地勘のない俺達には非常に長い道のりだった。1時間ほど歩いただろうか?蒸し暑い中、歩き通しだったので飲み物も尽きた。自販機などこの頃まだ未開発だったK市の道路脇にあるはずもなく俺達はフラフラになりながら歩いた。

今になって思えばものすごい遠回りをしていた。おそらく20分ほど歩けば着く距離を延々遠回りをして1時間以上掛けて歩いた。その甲斐あって雑貨店を発見し飲み物にはありつけたのだが。この時飲んだ烏龍茶は本当に旨かった。

やっとたどり着いたO池もアオコが発生していた…。まるで生命感がなかったが、俺達はそれでもキャストを続けた。

そろそろ涼しくなり始めた午後3時過ぎ。この時、ふと至近距離にあるY池の事を思い出した。このY池は数年前に水抜きし干されたと聞いていた。当然、訪れた事もなかった。どうせ釣れないなら様子をみていかないか?と二人に提案しY池に向かった。

堰堤を登りたどり着いたY池。水面はアオコに覆われていなかった。水はクリア~ステインの中間と言ったところか。護岸に降りようとする俺達の前で「ガボッゴボッ」と音が。覗きこめばブラックバスが捕食の最中だった。初めて目の当たりに捕食を見た俺達は大興奮した。

先を争うようにキャスト開始。最初にアタリがあったのは俺だった。ルアーはリングワーム4インチのテキサス。続けてA、Mにもヒット!Y池のブラックバスは歯が鋭くサイズは35~38センチの魚が夕方の数時間で一人7~10匹程度釣れた。ワームだけでなくハードルアーでも釣れた。この頃は1日で3匹釣れたら満足なレベルだったので感覚的には大爆釣だった。

夢のような時間だった。正直言って興奮しすぎて良く覚えていないが、多数のバラシもあった。どっぷり日が暮れるまでキャストを続けた。辺りが見えなくなってやっと帰り支度を始めた。

興奮冷めやらぬ俺達は帰り道の足取りも軽く、ブラックバスの歯で傷ついた親指を誇らしく思えた。匂いを嗅いだらブラックバス特有の青臭さがした。






文章にしてしまえば何て事ない話だが、俺には特別な思い入れがある。まだ子供と大人の真ん中あたりにいた頃。臭い言い方をすれば青春。
今よりも純粋に「釣り」というレジャーを楽しみ尽くしていたんじゃないか?と思える。釣行までの道のりも前日から準備も。下調べも。

全てが手軽にできるようになってしまった現代。便利にはなったけど、なにか大事なものを忘れてしまったのかもしれない。あれだけ憧れた琵琶湖にだって思い立てば今日にでも行けるようになってしまった。あれだけ欲しくてさがしたヘドンのルアーもネットで買って自宅まで届けてくれる。

でも、楽しむ事はできるけど、あの頃みたいに楽しみ尽くせるだろうか?

まだまだ話は尽きないが今回はここまで。次回も釣り話書きます。誰も読まないだろうけどー。

趣味のコト。

俺は多趣味だ。いや、多趣味というか飽きっぽいが正しいのかもしれない。

今まで手を出したのは、釣り、ギター、熱帯魚、古銭、プラモデル、エアガン、カクテル作りなど…挙げたらキリがない。

そして、大半が中途半端に飽きていつの間にか押し入れの住人なっている。

唯一、未だに趣味としているのは釣りぐらいだろうか。(釣りとはネットスラングの釣りではない)

次回から釣りに関する思い出を書いていきたいと思います。うまく文章にできるか自信はないのですが…。