微睡みの地平線

猫のヒゲ集めてます。

昔々、暑い熱い日のコト。

今年は、何度も台風が上陸をして難儀された方も多かっただろう。台風前になんとなく胸が苦しくなるのは俺だけなんだろうか…?この感覚に襲われると決まって思い出す日の出来事を書いてみようと思う。

20数年前。元号が昭和から平成に変わったばかりで世間はバブル景気に沸いていた頃。

当時の俺達は受験を控えた中学生だった。毎年行われるクラス替えで釣りを共通の趣味とする仲間が固まって同じクラスになった。その仲間達とよく地元のフィールドに出掛けていた。

当時は足といえば自転車か公共交通機関を利用するしか俺達に選択肢はなく、若さとバカさに任せて西へ東へと走り回っていた。ヘドンのルアーを求めて自転車で1時間走って隣の市の釣具店まで行ったり、ブラックバスがいるという噂を聞いては迷い迷い山の上まで池を探して走り回ったり…。

現代とは違い手軽にネットで情報が手に入る時代ではなく、最も新鮮な情報は地元の釣具店の話かフィールドで出会った釣り人との会話で得るものだった。一番価値があったのは自分の足で稼いだ情報だった。

俺達は次第に地元のフィールドのみではなく、大型のブラックバスが釣れるという電車で1時間ほどのK市へ通うようになっていた。通うと行っても中学生の小遣いの範疇では月に一度が精一杯で当然、駅からは徒歩で移動である。

この市には無数の灌漑用の池が存在していた。現在ではほとんどの池にブラックバスが入っていると思うが、当時はまだ入っている池と入っていない池が半々といったところだった。とりあえず駅から徒歩で移動できる範囲の池へ行って釣れた池、釣れたと聞いた池には地図にマーカーで印を付けていったものだ。

夏休みに入ったばかりの7月の終わりに前々から約束していたクラスメイトのAとMと共にK市に出掛けた。この日はAの父上が車でK市まで乗せていってくれたことを覚えている。俺達の街ではまだ見掛けなかったファミリーマートの前で降ろしてもらい食料を調達して歩きはじめた。

20分も歩けば最初の目的地N池だ。このN池で俺は最初の釣行時に人生初となるブラックバスを釣り上げていた。数は出ないが出たら良いサイズの池だった。

N池に到着する頃には俺達は汗だくだった。非常に蒸し暑かった。7月の暑さだけではなく、台風が接近してきていて翌日からは天気が荒れると予報が出ていた。

そして、N池に到着し水面を一瞥した俺達はさらに元気を無くす。アオコが発生していたからだ。池の水面に抹茶を混ぜたような色。少ない俺達の経験からもこの状態が厳しいものである事は理解できた。

せっかくここまで来たのだから…と気を取り直して準備を始める。一番最初にキャストを始めたのはA。こいつは今でも釣り支度が早い。続けて俺とMもキャストを始める。

…しかし、生命感がない。なさすぎる。少ないルアーを手を替え品を替え試行錯誤するがアタリはなく、たまにあってもギルのアタリ。当時の俺達はワームと言えばテキサスリグだったし、グラブと言えばジグヘッドだった。当時最先端だったスプリットショットリグなんか知りもしなかったし、使い始めたのはこの少し後だった。要するに引き出しが少なすぎたのだ。

いい加減ラインが抹茶色に染まりウンザリしかけた頃にMにアタリが!ロッドがしなる。慎重に寄せてハンドランディング。この時に少し足場が高い位置で釣りをしていたので腹這いになり一人が池に落ちないように足を抑えてランディングした。今思えば非常に間抜けな絵面だ。

Mの釣り上げたブラックバスは42センチの良型だった。もうMは一人でご満悦である。当然、俺とAは面白くない。ここで昼食とした。昼食はファミリーマートで買ってきたおにぎりで一人5個ずつ買ったはずだった。

俺達は、ああでもないこうでもない言いながら食っていたのだが、おにぎりが足りない。Aもひとつ足りないと言う。疑惑がMに向けられる。Mは必死に咀嚼しながら食べてないよ!と言い張る。しかし、Mの言い分は俺達に通じずにMはしばらく「おにぎり泥棒」というひねりもない不名誉なアダ名を付けられたのだった。

太陽が真上に来る頃に抹茶色に飽き飽きした俺達は移動を決意した。地図を拡げて比較的近距離のO池を目指す事にした。O池は比較的メジャーフィールドだったが俺達はまだ行った事がなかった。

地図で見ると比較的近距離であるが、徒歩で土地勘のない俺達には非常に長い道のりだった。1時間ほど歩いただろうか?蒸し暑い中、歩き通しだったので飲み物も尽きた。自販機などこの頃まだ未開発だったK市の道路脇にあるはずもなく俺達はフラフラになりながら歩いた。

今になって思えばものすごい遠回りをしていた。おそらく20分ほど歩けば着く距離を延々遠回りをして1時間以上掛けて歩いた。その甲斐あって雑貨店を発見し飲み物にはありつけたのだが。この時飲んだ烏龍茶は本当に旨かった。

やっとたどり着いたO池もアオコが発生していた…。まるで生命感がなかったが、俺達はそれでもキャストを続けた。

そろそろ涼しくなり始めた午後3時過ぎ。この時、ふと至近距離にあるY池の事を思い出した。このY池は数年前に水抜きし干されたと聞いていた。当然、訪れた事もなかった。どうせ釣れないなら様子をみていかないか?と二人に提案しY池に向かった。

堰堤を登りたどり着いたY池。水面はアオコに覆われていなかった。水はクリア~ステインの中間と言ったところか。護岸に降りようとする俺達の前で「ガボッゴボッ」と音が。覗きこめばブラックバスが捕食の最中だった。初めて目の当たりに捕食を見た俺達は大興奮した。

先を争うようにキャスト開始。最初にアタリがあったのは俺だった。ルアーはリングワーム4インチのテキサス。続けてA、Mにもヒット!Y池のブラックバスは歯が鋭くサイズは35~38センチの魚が夕方の数時間で一人7~10匹程度釣れた。ワームだけでなくハードルアーでも釣れた。この頃は1日で3匹釣れたら満足なレベルだったので感覚的には大爆釣だった。

夢のような時間だった。正直言って興奮しすぎて良く覚えていないが、多数のバラシもあった。どっぷり日が暮れるまでキャストを続けた。辺りが見えなくなってやっと帰り支度を始めた。

興奮冷めやらぬ俺達は帰り道の足取りも軽く、ブラックバスの歯で傷ついた親指を誇らしく思えた。匂いを嗅いだらブラックバス特有の青臭さがした。






文章にしてしまえば何て事ない話だが、俺には特別な思い入れがある。まだ子供と大人の真ん中あたりにいた頃。臭い言い方をすれば青春。
今よりも純粋に「釣り」というレジャーを楽しみ尽くしていたんじゃないか?と思える。釣行までの道のりも前日から準備も。下調べも。

全てが手軽にできるようになってしまった現代。便利にはなったけど、なにか大事なものを忘れてしまったのかもしれない。あれだけ憧れた琵琶湖にだって思い立てば今日にでも行けるようになってしまった。あれだけ欲しくてさがしたヘドンのルアーもネットで買って自宅まで届けてくれる。

でも、楽しむ事はできるけど、あの頃みたいに楽しみ尽くせるだろうか?

まだまだ話は尽きないが今回はここまで。次回も釣り話書きます。誰も読まないだろうけどー。